問題
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】 Y株式会社(以下「Y」という。)は,甲土地を所有していた。X1は,自宅兼店舗を建築する予定で土地を探し,甲土地が空き地となっていたことから,購入を考えた。X1は,娘Aの夫で事業を引き継がせようと考えていたX2に相談し,共同で購入することとして,甲土地の購入を決めた。X1は,甲土地の購入に当たり,Yの代表取締役Bと交渉し,X1とX2(以下「X1ら」と いう。)は,Yとの間で甲土地の売買契約を締結した。X1らは,売買代金を支払ったが,Yの方で登記手続を全く進めようとしない。そこで,X1らは,Yを相手取って,甲土地について,売買契約に基づく所有権移転登記手続を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起した。
〔設問1〕
X1は,本件訴えの提起に際して,体調が優れなかったこともあり,X2に訴訟への対応を任せることとした。そのため,専らX2がX1らの訴訟代理人である弁護士Lとの打合せを行って本件訴えを提起したが,X1は,Yに訴状が送達される前に急死してしまった。X1の唯一の相続人はAであった。
X2は,X1から自分に訴訟対応を任されたという意識があったため,X1の死亡の事実をLに伝えなかった。訴訟の手続はそのまま進行したが,Yは,争点整理手続終了近くになって,X1の 死亡の事実を知った。
Yは,X1の死亡の事実を知って,「本件訴えは却下されるべきである。」と主張した。
このYの主張に対し,X2側としてどのような対応をすべきであるかについて,論じなさい。
【事例(続き)】(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。) 本件訴えに係る訴訟(以下「前訴」という。)においては,唯一の争点として甲土地の売買契約の成否が争われた。裁判所は,X1ら主張の売買契約の成立を認め,X1らの請求を全て認容する判決(以下「前訴判決」という。)を言い渡し,この判決は確定した。
しかし,Bは,前訴の口頭弁論終結前に,甲土地について処分禁止の仮処分がされていないことを奇貨として,強制執行を免れる目的で,Bの息子Zと通謀し,YからZに対する贈与を原因とする所有権移転登記手続をした。X1らは,前訴判決の確定後にその事実を知った。そこで,X1らは,YとZとの間の贈与契約は虚偽表示によりされたものであると主張し,Zに対して甲土地の所有権移転登記手続を求める訴え(以下,この訴えに係る訴訟を「後訴」という。)を提起した。Zは,後訴においてX1らとYとの間の売買契約は成立していないと主張した。
〔設問2〕
X1らは,上記のようなZの主張は前訴判決によって排斥されるべきであると考えている。X1らの立場から,Zの主張を排斥する理論構成を展開しなさい。ただし,「信義則違反」及び「争点効」には触れなくてよい。
出題趣旨
本問は,当事者に生じた事情変更に関する諸問題についての理解を問うものである。そして,具体的な事実関係を的確に読み込み,一方当事者側(本問では原告側)から問題を処理し得る理論構成ができるかを評価するものである。 設問1では,訴え提起後訴訟係属前に共同原告の一人が死亡してしまった場合に,残った原告側の対応が問題となっている。具体的には,判例の立場では固有必要的 共同訴訟とされる本件共同訴訟の性質を踏まえつつ,原告側での死者名義訴訟の処理について検討することが求められている。
設問2は,前訴判決の既判力を第三者に拡張できるかを問うものである。問題文では,原告らが売買を理由とする土地の移転登記手続を求めていた前訴の口頭弁論終結前に登記が被告から第三者に移転しており,その移転を原告らが知り得ないま ま,原告ら勝訴判決を得て,それが確定した。その後,原告らが当該第三者への登記移転の事実を知り,当該第三者に対して所有権移転登記請求訴訟を提起した場合に,前訴判決の既判力が当該第三者に及ぶとする(原告ら側からの)理論構成を問 うものである。主に,民事訴訟法第115条第1項第4号(目的物の所持者)の類推適用可能性が問われている。
答案構成
第1 設問1について
1
- Yの主張は、本件訴えが固有必要的共同訴訟(40条)を前提とし、X1が訴状送達前に死亡しているため、当事者適格を欠き、却下されるというもの
- X2の主張は、①固有必要的共同訴訟ではなく通常訴訟②固有必要的共同訴訟としても訴訟承継の規定(124条1項1号)の類推適用により相続人Aが当事者となり、当事者適格を欠くものではないというもの
2 ①について
- 固有必要的共同訴訟か通常共同訴訟かの判断基準について
- 実体法上の管理処分権の帰属を基準とするべき
- 本件訴訟の訴訟物は、売買契約に基づく所有権移転登記請求権であるため、実体法上の管理処分権が共同的に帰属しているわけではない
- 本件訴えは、通常共同訴訟
3 ②について
- 訴状送達前のため、訴訟承継の規定(124条1項1号)を直接適用できない
- 訴え提起後を考慮すると類推がはたらく
- 本件では訴訟代理人が選任されているため、類推適用を認めるべき
- 固有必要的共同訴訟としても却下されない
第2 設問2について
1 Zの主張を排斥する理論構成
- 前訴判決の既判力
2
- Zに既判力が及ばないのが原則
- Zは仮装の登記名義人であり、115条1項4号を類推適用すべき
- よってZに前訴判決の既判力が及ぶ
3
- 前訴訴訟物と後訴訴訟物は異なる
- 前訴訴訟物と後訴訴訟物は実質的に同じ
- 既判力を認めることができる
4
- Zの主張は前訴判決に反する
- Zの主張は排斥される