予備試験過去問(論文)

令和2年度 司法試験予備試験過去問題・答案構成(論文式_刑事訴訟法)

問題

次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。

【事例】

甲は,①「被告人は,令和元年6月1日,H県I市内の自宅において,交際相手の乙に対し,その顔面を平手で数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約5日間を要する顔面挫傷等の傷害を負わせたものである。」との傷害罪の公訴事実により,同月20日,H地方裁判所に起訴された。
同事件について,同年8月1日,甲に対し,同公訴事実の傷害罪により有罪判決が宣告され,同月16日,同判決が確定した。
ところが,前記判決が確定した後,甲が同年5月15日に路上で見ず知らずの通行人丙に傷害を負わせる事件を起こしていたことが判明し,同事件について,甲は,②「被告人は,令和元年5月15日,J県L市内の路上において,丙に対し,その顔面,頭部を拳骨で多数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約6か月間を要する脳挫傷等の傷害を負わせたものである。」との傷害罪の公訴事実により,同年12月20日,J地方裁判所に起訴された。
公判において,甲の弁護人は,「②の起訴の事件は,既に有罪判決が確定した①の起訴の事件と共に常習傷害罪の包括一罪を構成する。よって,免訴の判決を求める。」旨の主張をした。

〔設問〕
前記の弁護人の主張について,裁判所は,どのように判断すべきか。
仮に,1の起訴が,「被告人は,常習として,令和元年6月1日,H県I市内の自宅において,交際相手の乙に対し,その顔面を平手で数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に加療約5日間を要する顔面挫傷等の傷害を負わせたものである。」との常習傷害罪の公訴事実で行われ,同公訴事実の常習傷害罪により有罪判決が確定していた場合であればどうか。

(参照条文) 暴力行為等処罰ニ関スル法律
第1条ノ3第1項 常習トシテ刑法第204条,第208条,第222条又ハ第261条ノ罪ヲ犯シタル者人ヲ傷害シタルモノナルトキハ1年以上15年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス

出題趣旨

本問は,刑事訴訟法の基本的な学識の有無及び具体的事案における応用力を試すものである。

本問では,後訴について,既に確定判決を経たものとみて免訴判決をすべきか,すなわち,確定判決の一事不再理効の客観的範囲をどのように考えるべきかが問題となる。

この点については,

  • 「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法第312条第1項)の有無を基準とする見解
  • 同時訴追の可能性の有無を基準とする見解

など様々な立場があり得るが, いかなる見解を採るにせよ,一事不再理効の根拠・趣旨に言及した上で,その客観的範囲に関する判断基準を明らかにする必要がある。

また,前者の見解を採った場合に本問で問題となるのは,公訴事実の単一性の有無であるから,その旨を明らかにした上で,裁判所は,前訴・後訴の両訴因に記載された事実のみを基礎として単一性を判断すべきなのか,それとも,いずれの訴因の記載内容にもなっていない要素について証拠 により心証形成した上で単一性を判断すべきなのかなど,公訴事実の単一性の判断方法について,その根拠とともに論じることが求められる。

本問の検討に当たっては,判例(最判平成15.10.7)があることから,この判例についての理解も示しつつ,自説の立場から本問の【事例】及び〔設問〕の仮設事例への当てはめを行い,それぞれ免訴判決をすべきか否かの結論を述べる必要がある。

答案構成

第1 設問前段について(裁判所はどのように判断すべきか)

1 刑訴法337条1項の要件、効果

  • 本条文の趣旨:確定判決の一事不再理効が及ぶ場合は免訴判決をすべき
  • 論点:①②の異なる訴因をどう捉えるか

2 一事不再理効について

  • 一事不再理効は憲法39条が根拠
  • 一事不再理効は公訴事実の同一性の範囲内で及ぶと解する
  • ①②は常習傷害罪を構成→包括一罪

3 公訴事実の単一性について

  • 各訴因は単純傷害罪として構成→包括一罪ではなく併合罪
  • 公訴事実の単一性を否定
  • 裁判所は免訴判決をせず、審理を続けるべき

第2 設問後段について(常習傷害罪により有罪判決が確定していた場合)

  • 訴因が常習傷害罪として構成されている
  • 両訴因に公訴事実の単一性が認められる
  • ①の確定判決の一事不再理効は、②の起訴に及ぶ
  • 弁護士の主張は正当→裁判所は免訴判決をすべき

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