問題
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】 令和2年10月2日午後2時頃,H県I市所在のマンション内にあるV方に2名の男が侵入し,金品を物色中,帰宅したVと鉢合わせとなり,同男らのうち1名がナイフでVの腕を切り付けた上,もう1名がVの持っていたバッグを奪うという住居侵入,強盗傷人事件が発生した。Vは,犯人らが立ち去った後,直ちに110番通報し,同日午後2時20分頃,制服を着用したI署の司法警察員PとQがV方に到着した。Pらは,Vから,犯人らの特徴と奪われたバッグの特徴を聞き出した上,管理人に依頼して同マンションの出入口の防犯カメラ画像を確認した。その結果,同日午後2時1分頃に犯人らと特徴の一致する2名の男が走り去っていく様子が映っており,そのうち1名は被害品と特徴の一致するバッグを所持していた。その後,Pらは,同男らの行方を捜した。
同日午後4時頃,Pらは,V方から直線距離で約5キロメートル離れた同市内の路上で,犯人らと特徴の一致する甲及びもう1名の男を発見した。その際,甲は,被害品と特徴の一致するバッグを持っていた。そこで,Pは,甲らに対し,「I署の者ですが,話を聞きたいので,ちょっといいですか。」と声をかけた。すると,甲らがいきなり逃げ出し,途中で二手に分かれたことから,Pらは,前記バッグを持っていた甲を追跡した。甲は,同バッグを投棄して逃走を続けたが,Pらは300メートルくらい走ったところで甲に追い付き,同日午後4時3分頃,①Pが甲を刑事訴訟法第212条第2項に基づき本件住居侵入,強盗傷人の被疑事実で逮捕した。もう1名の男は,発見には至らなかった。
甲は,同日午後4時30分頃からI署で開始された弁解録取手続において,本件の主任捜査官である司法警察員Rに対し,「私がV方で強盗をしてバッグを奪ったことは間違いない。ナイフでVを切り付けたのは,もう1人の男である。そのナイフは,警察に声をかけられる前に捨てた。捨てた場所は,地図で説明することはできないが,近くに行けば案内できると思う。もう1人の男の名前などは言いたくない。」旨述べた。同日午後4時50分頃,弁解録取手続が終了し,Rは,直ちに甲にナイフの投棄場所を案内させて,ナイフの発見,押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施しようと考え,捜査員や車両の手配をし た。
同日午後5時頃,出発しようとしたRに対し,甲の父親から甲の弁護人になるように依頼を受けたS弁護士から電話があり,同日午後5時30分から30分間甲と接見したい旨の申出があった。Rは,S弁護士が到着し,接見を終えてから出発したのでは,現場に到着する頃には辺りが暗くなることが見込まれていたことから,S弁護士に対し,今から甲に案内させた上で実況見分を実施する予定があるため接見は午後8時以降にしてほしい旨述べた。これに対し,S弁護士は,本日中だと前記30分間以外には接見の時間が取れず,翌日だと午前9時から接見の時間が取れるが,何とか本日中に接見したい旨述べた。Rは,引き続きS弁護士と協議を行うも,両者の意見は折り合わなかった。そのため,②Rは,S弁護士に対し,接見は翌日の午前9時以降にしてほしい旨伝えて通話を終えた上,予定どおり甲を連れて実況見分に向かった。それまでの間,甲は,弁護人及び弁護人となろうとする者のいずれとも接見していなかった。
〔設問1〕
①の逮捕の適法性について論じなさい。
〔設問2〕
②の措置の適法性について論じなさい。ただし,1の逮捕の適否が与える影響については論じなくてよい。
出題趣旨
本問は,共犯者2名による住居侵入,強盗傷人事件において,
設問1では,事前に被害者から犯人や被害品の特徴を聴取し,防犯カメラの画像でもこれを確認していた警察官が,犯行の約2時間後,犯行現場から約5キロメートル離れた路上で,犯人の特徴と一致する2名の男を発見し,そのうち1名が被害品の特徴と一致するバッグを所持していたことから,その男に声をかけたところ,両名が逃走したため,これを追跡し,途中で上記バッグを投棄した1名を刑事訴訟法第212条第2項に基づき逮捕(準現行犯逮捕)した事例において,この逮捕が,準現行犯逮捕の要件を充足するかどうかを検討させることを通じて,準現行犯逮捕が令状主義の例外として認められる趣旨や,準現行犯逮捕の条文構造を踏まえた具体的事案における適用のあり方を示すことを求めるものである。
設問2では,逮捕された被疑者について,間近い時期に被疑者を未発見の凶器の投棄現場に案内させ,その立会の下で同所の実況見分を実施する確実な予定がある中で,弁護人となろうとする者から,被疑者との初回の接見を30分後から30分間行いたい旨の申出があったのに対し,接見の日時を翌日と指定した事例において,接見指定の要件である「捜査のため必要があるとき」(刑事訴訟法第39条第3項本文)の意義や,初回接見についての指定内容と同項ただし書の「指定は,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。」との関係についての理解を踏まえて,当該指定の適否を検討させるものである。その検討においては,最高裁判所の判例(最高裁平成11年3月24日大法廷判決,最高裁平成12年6月13日第三小法廷判決等)を意識して自説を展開する必要がある。
設問1及び2のいずれも刑事訴訟法の基本的な学識の有無及び具体的事案における応用力を問う問題である。
答案構成
第1 設問1について
1 準現行犯逮捕(212条2項)の要件について
論点「時間的接着性」「犯人と犯罪の明白性」について
2(1) 要件→あてはめ
(2)「時間的接着性」「犯人と犯罪の明白性」→あてはめ
(3)①の逮捕は適法
第2 設問2について
1 接見指定(39条3項)について
「捜査のため必要があるとき」→あてはめ
接見交通権について
2 「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなもの」→あてはめ
②の措置は「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなもの」にはならず適法