予備試験過去問(論文)

令和4年度 司法試験予備試験過去問題・答案構成(論文式_行政法)

問題

A県B町は、B町文化財保護条例(以下「本件条例」という。)を定め、B町の区域内に存する文化財のうち重要なものを指定し、その保存及び活用のため必要な措置を講じている。B町教育委員会(以下「教育委員会」という。)は、平成18年4月14日、告示により、B町の区域内にあるC古墳を本件条 例第4条第1項に基づきB町指定文化財に指定した(以下、同指定を「本件処分」という。)。C古墳は、7世紀前半に造られた横穴式石室古墳であり、宗教法人Dが本件処分以前から所有する土地(以下「本件土地」という。)の一部を占めている。横穴式石室とは、遺体を納める埋葬室と、そこから入口部分へとつながる通路から成る石積みの墓室をいい、その全体が墳丘を成している盛土の中に埋まっているのが通常であるところ、C古墳の横穴式石室(以下「本件石室」という。)も、埋葬室の中心から半径約10メートルの盛土の中に石造りの埋葬室と通路が埋まっているが、その入口周辺の盛土は崩れてしまい、入口を構成している巨石が盛土から露出している状態であった。教育委員会は、本件処分の際に、C古墳の範囲が本件石室に限定されるものではなく、本件石室を取り巻く盛土全体もC古墳に含まれると考えており、その範囲(本件石室の埋葬室の中心から半径約10メートルの円の内側一帯)に本件処分の効力が及ぶと認識していた。もっとも、上記露出している巨石(同巨石は、本件石室の埋葬室の中心から約9メートルの距離に位置する。)の周辺のみは、Dから管理責任者として選任されている教育委員会により本件処分の直後から定期的に草刈りがされてきたものの、それ以外の盛土全体には樹木が生い茂っている。また、教育委員会は、本件処分後にC古墳であることを示す標識を露出している上記巨石のすぐそばに設置したが、上記半径約10メートルの円の内側一帯がC古墳であることを示す標識等を設置したことはなかった。
Dは、平成31年3月5日、C古墳周辺を公園として整備することとし、教育委員会に相談したところ、教育委員会は、Dの計画がC古墳の現状を変更したり、その保存に影響を与えたりしないものであれば、本件条例第13条の許可は不要である旨回答した。そこで、Dは、本件土地を平らに整地する土木工事(以下「本件工事」という。)を開始した。教育委員会は、令和3年5月頃、本件処分の効力が及ぶと考えている土地の付近まで本件工事が進められていることを把握したことから、C古墳の現状保存等のため、Dに対して本件工事の中断を求める旨の行政指導を行った。Dは、本件工事を中断した上で、教育委員会に対し、C古墳の範囲は、埋葬室及び通路から成る本件石室部分のみを指し、盛土は含まれないから、本件石室の周囲1メートルまでの工事ならば、C古墳の現状が変更されることはなく、その保存に影響を与えることもないと主張したが、教育委員会は、Dの主張する工事を行うには、本件条例第13条第1項に基づく教育委員会の許可が必要になるとDに説明した。
Dは、教育委員会に反論する根拠を見付けたいと考え、教育委員会の許しを得て本件処分当時の関係資料を閲覧した。当該資料によれば、C古墳が指定文化財に指定されたことは当時のDの代表者にも前記告示の日に通知されたこと等が記載されていたものの、本件処分の指定対象物の範囲が本件石室にとどまるのか、それとも本件石室とそれを取り巻く盛土も含むのかについては記載がなかった。また、本件処分当時、B町文化財保護委員会(以下「保護委員会」という。)は、委員長である考古学者Eのほか、歴史学、民俗学等を専攻する9名の研究者で構成されていたが、本件処分に当たり、本件条例の定める手続に基づく保護委員会への諮問は行われておらず、E一人のみの意見を聴取し、当該資料には、「Eの意見聴取を経たことにより、本件条例第4条第2項に基づく保護委員会への諮問手続を実質的には履践したものといえる。」との教育委員会の意見が付記されていた。
Dは、本件処分の内容の明確性や手続等に問題があることから、本件処分それ自体を争うべきであると考えるに至り、行政訴訟を提起することを考えている。
以上を前提として、以下の設問に答えなさい。 なお、本件条例の抜粋を【資料】として掲げるので、適宜参照しなさい。
〔設問1〕
Dは、本件処分について、取消訴訟の提起を断念し、無効確認訴訟を提起したいと考えている。Dが当該取消訴訟の提起を断念した理由として考えられるものについて説明するとともに、Dが当該無効確認訴訟を提起した場合、Dに行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)第36条に定める原告適格が認められるかを検討しなさい。なお、本問の解答に当たっては、本件処分が行訴法第3条第2項の「処分」に当たることを前提にしなさい。
〔設問2〕
Dは、本件処分の無効確認訴訟において、本件処分が無効であることについて、どのような主張をすべきか。想定されるB町の反論を踏まえて、検討しなさい。

出題趣旨

本問は、文化財保護条例に基づき、町が私有地にある古墳を文化財に指定した処分(以下「本件処分」という。)について、取消訴訟の訴訟要件としての出訴期間の意義・理解とともに、無効確認訴訟の訴訟要件及び本案勝訴要件に関する基本的な知識・理解を試す趣旨の問題である。

設問1では、無効確認訴訟の原告適格の有無について、行訴法第36条に則して検討することが求められる。


設問2では、無効確認訴訟の勝訴要件について言及した上で、当該事案について本件処分の無効事由に当たるかどうか、本問における事実関係を踏まえて紛争当事者の主張を想定しながら論ずる必要がある。

答案構成

第1 設問1

1 Dが当該取消訴訟の提起を断念した理由

  • 出訴期間(行訴法14条)について
  • 出訴期間が経過しており、取消訴訟提起を断念

2 Dに行訴法36条に定める原告適格が認められるか否か

  • 行訴法36条の要件→あてはめ
  • Dに原告適格あり

第2 設問2

1 Dの主張

  • 処分内容が不明確
  • 諮問手続(4条2項)を経ていない

(1)「処分内容が不明確」について

  • 本件処分の対象物の範囲が不明確

(2)「諮問手続(4条2項)を経ていない」について

  • 手続上の違法があるため無効

資料

○ B町文化財保護条例(抜粋)

第1条(目的) この条例は、(中略)B町の区域内に存する文化財のうち重要なものを指定し、その保存及び活用のため必要な措置を講じ、もって町民の文化的向上に資するとともに、国文化の進歩に貢献することを目的とする。

第3条(財産権等の尊重及び公益との調整) B町教育委員会(以下「教育委員会」という。)は、この条例の施行に当たっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、文化財の保護と他の公益との調整に留意しなければならない。

第4条(指定) 教育委員会は、町の区域内に存する文化財のうち、町にとって重要なものをB町指定文化財(以下「町指定文化財」という。)に指定することができる。
2 教育委員会は第1項の規定による指定をしようとするときは、B町文化財保護委員会(以下「保護委員会」という。)に諮問しなければならない。
3 第1項による指定は、その旨を告示するとともに、当該文化財の所有者及び権原に基づく占有者に通知して行う。
4 第1項による指定は、前項の規定による告示があった日から効力を生ずる。
5、6 (略)

第6条(所有者の管理義務及び管理責任者) 町指定文化財の所有者は、この条例に従い、町指定文化財を管理しなければならない。 2 (略)
3 町指定文化財の所有者は、特別の事情がある場合は、専ら自己に代わり当該指定文化財の管理の責めに任ずべき者(以下「管理責任者」という。)を選任することができる。
4~6 (略)

第13条(現状変更等の制限) 町指定文化財の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、あらかじめ、教育委員会の許可を受けなければならない。 2、3 (略)

第19条(保護委員会の設置) 文化財に関する諮問のため、保護委員会を置く。

第20条(保護委員会の組織等) 保護委員会の委員は、10人以内とし、学識経験を有する者のうちから教育委員会が委嘱する。 2~5 (略)

第21条(保護委員会の答申等) 保護委員会は、教育委員会の諮問に応じ、これを審議し、これに関する専門的又は技術的事項について答申する。
2 保護委員会は、前項の答申に必要な調査、研究を行う。

第22条(会議の招集等) 保護委員会の会議は、教育長が招集する。
2 会議は、委員の半数以上が出席しなければ開くことができない。 3 保護委員会の庶務は、教育委員会において処理する。

-予備試験過去問(論文)