予備試験過去問(短答)

令和4年度 司法試験予備試験過去問題・解答(短答式_刑法)

第1問

信用及び業務に対する罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものを2個選びなさい。(解答欄は、[No.1]、[No.2]順不同)

1.人の業務に使用する電子計算機に対して不正な指令を入力した場合、その指令の内容が人の業務を妨害するおそれのあるものであれば、当該電子計算機の動作に影響を及ぼしていなくても、電子計算機損壊等業務妨害罪の既遂犯が成立し得る。

2.威力業務妨害罪における「威力」は、客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力であればよく、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要しない。

3.偽計業務妨害罪における「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤又は不知を利用することをいい、電話料金の支払を免れるための機器を電話回線に取り付けて課金装置の作動を不能にする行為は、これに該当しない。

4.信用毀損罪は、経済的な側面における人の社会的な評価を保護するものであり、同罪における「信用」には、人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼だけでなく、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれる。

5.威力業務妨害罪における「威力」は、被害者の面前で行使される必要があるので、被害者が執務のために日頃使っている机の引き出しに猫の死骸をひそかに入れた場合、後に被害者がこれを発見するに至ったとしても、威力業務妨害罪は成立しない。


正解:2、4

ポイント

1:動作に影響が出ない限り、当該罪は成立しない→×

3:本肢のケースは、偽計業務妨害罪に該当する→×

5:威力業務妨害罪の「威力」は直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない→×

第2問

違法性に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。(解答欄は、[No.3])

ア.私人が現行犯人を逮捕しようとする場合、犯人から抵抗を受けたときは、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使したことで犯人に傷害を負わせたとしても、法令による行為に当たるから、傷害罪が成立することはない。

イ.勤労者の争議行為に際し、人の看守する建造物に看守者の意思に反して侵入した場合、法令による行為に当たるから、建造物侵入罪が成立することはない。

ウ.虚偽告訴の罪で起訴された者が、人違いで告訴したと気付きながら、公判廷において、公然と虚偽の事実を摘示して被告訴人の名誉を毀損した場合、被告人としての防御権の行使に当たるから、名誉毀損罪が成立することはない。

エ.商人が、自己と通謀して客を装い他の客の購買心をそそる者(いわゆる「さくら」)を使って、商品の効用が極めて大きく世評も売れ行きも良いように見せかけて客を欺罔し、これを信じた客に効用の乏しい商品を売り付けた場合、正当な業務による行為に当たるから、詐欺罪が成立することはない。

オ.宗教上の加持祈祷の行として他人の生命、身体に危害を及ぼす有形力を行使し、その結果、その他人を死亡させた場合、正当な業務による行為に当たるから、傷害致死罪が成立することはない。

1.1個 2.2個 3.3個 4.4個 5.5個


正解:1

ポイント

ア:「社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使」は法令の範囲内と考えられる→○

第3問

学生A、B及びCは、次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の1から5までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答 欄は、[No.4])

【会 話】
学生A.状態犯とは、法益侵害の発生と同時に犯罪が終了するが、その後も法益侵害状態が残存する犯罪です。傷害罪がその典型です。これに対し、継続犯とは、法益侵害が継続している間は犯罪の継続が認められる犯罪であり、監禁罪や、1(a.保護責任者不保護罪・b. 窃盗罪)がこれに当たると考えられます。
学生B.住居侵入罪を状態犯と解すべきか、継続犯と解すべきかは争いがあります。2(c.状態犯・d.継続犯)と解する立場は、反対説によると、侵入後の現場滞留についても住居侵入罪が成立し、不退去罪が規定されている意味が失われてしまうと同説を批判します。
学生C.私は、継続犯は、3(e.構成要件該当行為・f.構成要件的結果)が継続する犯罪であると考えます。私の見解からは、被害者の監禁中に監禁罪の法定刑を引き上げる新法が施行された場合、それ以降の監禁については、4(g.新法・h.旧法)が適用されることになります。
学生A.私は、Cさんの継続犯に関する理解には賛成できません。例えば、行為者が被害者を監禁した後に眠り込んだ場合であっても犯罪は継続しますが、行為者が眠り込んだ後には意思に基づく身体の動静がない以上、Cさんの見解のように理解するのは困難だと考えるからです。
学生B.ところで、状態犯についても、犯罪の終了時期と既遂時期の関係について考える必要があります。私は、傷害罪については、両者は、5(i.常に一致する・j.一致するとは限らない)と考えます。被害者が一旦負傷した後、その傷害が悪化し続けることがあるか らです。

1.1a 2c 3f
2.1a 2d 5i
3.1b 3e 4h
4.2c 4g 5i
5.3e 4g 5j


正解:5

ポイント

1:a.保護責任者不保護罪、2:c.状態犯、3:e.構成要件該当行為

4:g.新法、5:j.一致するとは限らない

第4問

背任罪に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.5])

ア.甲は、信用保証協会の支所長であり、金融機関が中小企業者等に対して行う融資に関して、信用保証をなす業務を行っていたところ、乙の利益を図る目的で、乙に返済能力がないことを知りながら、乙が金融機関から融資を受けるに際し、確実かつ十分な担保の徴求をしないまま、同協会にその保証債務を負担させた。この場合、乙の金融機関に対する債務がいまだ不履行の状態に至らず、上記協会に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていなくても、甲に背任罪が成立する。

イ.甲は、乙から頼まれ、乙が丙に対する貸金債権の質物として提供を受けていた丙所有の絵画を甲の自宅倉庫で保管していたが、乙に嫌がらせをする目的で、同絵画を乙に無断で丙に返還した。この場合、甲に背任罪が成立する。

ウ.甲は、乙が自身の有していた丙に対する債権を丁に譲渡した後、丁が対抗要件を具備する前に、同債権が丁に譲渡済みであることを確実に知りながら、同債権を転売して利益を得る目的で、乙に強く働き掛けて、乙から同債権を譲り受け、その対抗要件も具備した。この場合、甲と乙はいわゆる必要的共犯の関係に立つため、甲に背任罪の共同正犯が成立することはない。

エ.甲は、返済期日までに返済できないときは同期日に改めて甲の所有する土地に抵当権を設定する旨を述べて、乙を安心させて乙から金を借りたが、同期日が到来する前に、丙に対する借金を返済する目的で、乙に無断で同土地を丙に売却した。この場合、甲に背任罪が成立する。

オ.甲は、債権者乙との間で甲所有家屋を目的とする根抵当権設定契約を締結し、乙にその登記に必要な登記済証、白紙委任状及び印鑑証明を交付していたが、乙がその登記をしない間に、自らの利益を図る目的で、丙から金を借りて同家屋に根抵当権を設定し、丙が第1順位の根抵当権設定登記を了し、乙はそのために債権の回収が困難になった。この場合、甲に背任罪が成 立する。

1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ


正解:4

ポイント

ウ:甲と乙は必要的共犯の関係に立つ→×

エ:背任罪は「他人のためにその事務を処理する者」である必要があり、本肢は背任罪の構成要件要素を満たさない→×

第5問

責任能力に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.6])

ア.心神喪失とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力又はこの弁識に従って行動する能力のない状態を指すと解されているところ、ここにいう精神の障害とは、飲酒による酩酊等、一時的な精神状態の異常も含まれる。

イ.13歳の少年の行為は、罰しないことが原則であるが、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合、事案の重大性等の事情を考慮し、相当と認めるときは刑罰を科すことができる。

ウ.自ら日常的・継続的に覚醒剤を使用した影響により、継続的な精神障害が生じ、心神耗弱状態で傷害の犯行に及んだ場合には、自己の先行行為によって心神耗弱状態を招いたものであるから、刑法第39条第2項を適用する余地はない。

エ.刑法第39条第2項は刑の任意的減軽を定めているから、犯行時に心神耗弱の状態にあったとしても、その刑を減軽しないことができる。

オ.精神障害を有する同一人について、Aという罪に当たる行為については責任能力があるが、Bという罪に当たる別の行為については責任能力がないという事態は観念し得る。

1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ


正解:2

ポイント

イ:41条の規定により不可罰→×

ウ:39条2項の適用余地はある→×

エ:39条2項は必要的減刑を規定している→×

第6問

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。(解答欄は、[No.7])

1.甲は、乙が熟睡していることに乗じてわいせつな行為をしたが、これに気付いて覚醒した乙から抵抗され、わいせつな行為を行う意思を喪失した後、逃走するため、乙に暴行を加えて負傷させた。この場合、甲に準強制わいせつ致傷罪は成立せず、準強制わいせつ罪と傷害罪が成立するにとどまる。

2.甲は、自己の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図を有さず、専ら乙を侮辱し て報復するため、乙を脅迫して裸にして写真撮影した。この場合、甲に強制わいせつ罪が成立することはない。

3.甲は、自らが管理する動画配信サイトにわいせつな動画のデータファイルをアップロードし、 同サイトを利用した不特定の顧客によるダウンロード操作に応じて、同ファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータに自動的に送信させ、同コンピュータに記録、保存させた。この場合、甲にわいせつ電磁的記録等送信頒布罪が成立する。

4.甲は、わいせつな内容を含む書籍を販売したが、その目的は作品の文芸的・思想的価値を社会に主張することであった。この場合、甲にわいせつ文書頒布罪が成立することはない。

5.甲は、日本国外で販売する目的で、日本国内において、わいせつな内容を含む書籍を所持した。この場合、甲にわいせつ文書有償頒布目的所持罪が成立する。


正解:3

ポイント

1:本肢では強制わいせつ致傷罪が成立する→×

2:本肢では強制わいせつ罪が成立する→×

4:作品の文芸的・思想的価値の事情はわいせつ性の判断に関係ない→×

5:わいせつ文書有償頒布目的所持罪の保護法益は国内の性的風俗の秩序維持であるため→×

第7問

学生A、B及びCは、次の【事例】における甲の罪責について、後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の1から7までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、 後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.8])

【事 例】
甲は、先輩乙からの依頼を断り切れず、乙がV方に侵入して強盗を行うに当たり、乙をV方まで 自動車で送り届けるとともに、乙がV方に侵入してVから100万円を強取するまでの間、V方付近の路上で周囲を見張り、強盗を終えた乙を自動車に乗せて逃走した。乙は、甲の支援があったことから安心して強盗を完遂し、甲に対し、上記100万円のうち10万円を報酬として支払った。

【会 話】
学生A.私は、共同正犯と幇助犯の区別の基準として、1(a.行為者の主観的事情・b.行為の客観面)が重視されるべきだと考える。そうすると、【事例】では、そもそも、甲が侵 入強盗の送迎や見張りをしたのは、先輩である乙からの依頼を断り切れなかったためであるから、甲は、2(c.共同正犯・d.幇助犯)ということになるね。
学生B.そうは簡単に言えないと思う。自己の犯罪を遂行する意思かどうかについて、私は、3 (e.故意の同一性・f.行為者が果たした役割の重要性)も踏まえて判断すべきだと考える。そうであれば、犯行の実現に送迎や見張りが必要とされた事情によっては、Aさんとは違って、甲を、4(g.共同正犯・h.幇助犯)と解することもあるのではないかな。
学生C.私は、共犯の処罰根拠から考えるべきだと思う。つまり、共犯の処罰根拠は、5(i. 正犯者を誘惑し、犯意を抱かせたこと・j.法益侵害やその危険を間接的に惹起したこと)にあることからすれば、共犯においては、結果への因果的寄与が要求される。だから、共同正犯か幇助犯かは、自己の犯罪を遂行する意思かどうかではなくて、この因果的寄与の存在を前提として、関与内容が客観的に重要なものといえるかで区別されるべきだよ。
学生A.しかし、因果的寄与といっても、共同正犯といえるためには、6(k.意思連絡・l. 実行行為の分担)が要求されるべきであるから、Cさんの立場からも、7(m.物理的因果性・n.心理的因果性)が不可欠の要件になり、また、その程度が正犯性の判断に影響を及ぼすはずだよ。
学生C.そうすると、【事例】では、Bさんの挙げた事情だけではなく、甲と乙との関係性や乙 が甲に支援を依頼した理由も重視することになるね。

1.1a 2d 5j 6l
2.1b 3e 4g 7n
3.1a 4h 6l 7m
4.2c 3f 5i 6k
5.2d 3f 5j 7n


正解:5

ポイント

1:a.行為者の主観的事情、2:d.幇助犯、3:f.行為者が果たした役割の重要性、4:g.共同正犯

5:j.法益侵害やその危険を間接的に惹起したこと、6:k.意思連絡、7:n.心理的因果性

第8問

罪数に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものを2個選びなさい。(解答欄は、[No.9]、[No.10]順不同)

1.甲は、Aから財物を詐取した上で当該財物の返還を免れるためにAを殺害することを計画し、計画どおりにAから財物を詐取し、その後、殺意をもってAの胸部をナイフで刺して殺害し、これにより、財物の返還を免れるという財産上不法の利益を得た。甲には、詐欺罪と強盗殺人罪が成立し、これらは包括一罪となる。

2.暴力団幹部甲は、配下の組員数名とともに、Aの身体に共同して危害を加える目的で、日本刀数本を準備してA方前に集合し、その直後、外に出てきたAの顔面を手拳で数回殴打する暴行を加えた。甲には、凶器準備集合罪と暴行罪が成立し、これらは併合罪となる。

3.甲は、業務として猟銃を用いた狩猟に従事していた際、Aを熊と誤認して発砲し、Aに傷害を負わせ、その直後にAを誤射したことに気付いたが、Aを殺害して逃走しようと決意し、殺意をもってAの胸部に向けて発砲し、Aを即死させた。甲には、業務上過失傷害罪と殺人罪が成立し、これらは包括一罪となる。

4.甲は、A銀行が発行したB名義のキャッシュカード1枚をBから窃取した上、これを利用してA銀行の現金自動預払機から預金を不正に払い戻した。甲には、2個の窃盗罪が成立し、こ れらは併合罪となる。

5.甲は、対立する不良グループのメンバーA及びBを襲撃することを計画し、路上で発見したAをバットで1回殴打した直後、そばにいたBを同バットで1回殴打し、両名に傷害を負わせた。甲には、2個の傷害罪が成立し、これらは包括一罪となる。


正解:3、5

ポイント

3:本肢の場合、包括一罪ではなく併合罪である→×

5:本肢の場合、包括一罪ではなく併合罪である→×

第9問

略取誘拐罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。(解答欄は、[No.11])

1.身の代金目的略取誘拐罪にいう「安否を憂慮する者」は、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係が被拐取者との間にある者に限らず、同情から被拐取者の安否を気遣う第三者も含む。

2.未成年者誘拐罪の手段である欺罔は、被誘拐者に対して用いられる必要があり、監護者に対して用いられる場合を含まない。

3.刑法第228条の2(解放による刑の減軽)が適用されるためには、被拐取者を、「安全な場所」に解放する必要があるところ、「安全」とは、被拐取者が救出されるまでの間におよそ危険が生じないことを意味するから、漠然とした抽象的な危険や不安感ないし危惧感を伴うのであれば、「安全な場所」とはいえない。

4.自ら移動する意思も能力も有していない生後間もない嬰児であっても、未成年者略取誘拐罪の客体に当たる。

5.未成年者略取罪の保護法益には親権者の監護権も含まれるので、親権者が、他の共同親権者の監護下にある未成年の子を略取する行為については、未成年者略取罪が成立することはない。


正解:4

ポイント

1:「憂慮する者」は特別な関係にある者を指す→×

2:監護者に対して用いられても略取・誘拐になる→×

3:「漠然とした抽象的な危険や不安感ないし危惧感を伴う」だけで、ただちに安全性に欠けるとすることはできない→×

5:親権者の監護権も保護法益となる→×

第10問

過失に関する次の各【見解】についての後記アからオまでの各【記述】のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.12])

【見 解】

A説:過失の本質は、結果の発生を予見することができたのに、精神を緊張させずにこれを予見しなかったことにある。

B説:過失の本質は、社会生活上必要な注意を怠り、結果を回避するための適切な措置を採らなかったことにあり、その前提として、構成要件的結果及び因果経過の基本部分に対する具体的な予見可能性が必要になる。

C説:過失の本質は、B説と同様であるが、結果に対する具体的な予見可能性を必要とせず、一般人に対して何らかの結果回避措置を命じるのが合理的であるといえる程度の危惧感があれば足りる。

【記 述】

ア.A説からは、いわゆる信頼の原則を過失犯に適用する余地はない。

イ.A説は、故意犯と過失犯は客観面が共通であり、両者は主観面において区別されるとの見解と親和的である。

ウ.B説に対しては、結果回避のための適切な措置と行政取締法規が定める義務とを区別するのは困難であり、行政取締法規の義務違反が刑法上の過失になってしまうとの批判が可能である。

エ.B説に対しては、自動車運転はそれ自体危険な行為であり、いかなる運転行為からも死傷結果が生じ得る以上、容易に予見可能性が認められ、過失犯の成立範囲が広くなりすぎるとの批判が可能である。

オ.C説に対しては、構成要件該当事実に関する具体的な予見可能性がないにもかかわらず、漠然とした危惧感だけで過失責任を追及することは責任主義に反するとの批判が可能である。

1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ


正解:2

ポイント

ア:A説でも信頼の原則を過失犯に適用する余地はある→×

エ:B説は予見可能性があっても、結果を回避するための適切な措置があれば過失犯は成立しないため、成立範囲が広くなり過ぎることはない→×

第11問

次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.13])

ア.甲は、Aから金銭を借り入れるに際し、借入金を返済する意思も能力もないのに、知人Bに対し、「借入金は必ず自分で返済する。Bには迷惑をかけないので、保証人になってほしい。」とうそを言い、その旨Bを誤信させ、Aに差し入れる予定の甲を借主とする金銭消費貸借契約書を閲読させ、その保証人欄に署名押印させた。この場合、甲には、有印私文書偽造罪が成立する。

イ.甲は、窃取したA名義のクレジットカードの番号等を冒用し、インターネット上の決済手段として使用できる電子マネーを不正入手しようと考え、Aの氏名、同番号等の情報をインターネットを介してクレジットカード決済代行業者のコンピュータに送信し、Aが上記電子マネー 10万円分を購入した旨の電磁的記録を作出し、これによってインターネット上で同電子マネーを利用することを可能とした。この場合、甲には、支払用カード電磁的記録不正作出罪が成立する。

ウ.県立高校を中途退学した甲は、母親Aに見せて安心させる目的で、偽造された同高校校長B名義の甲の卒業証書を真正なものとしてAに提示した。この場合、甲には、偽造有印公文書行使罪が成立する。

エ.指名手配され逃走中の甲は、本名を隠してA会社に正社員として就職しようと考え、同社に提出する目的で、履歴書用紙の氏名欄にBという架空の氏名を記載し、その横にBの姓を刻した印鑑を押印した上、真実と異なる生年月日、住所及び経歴を記載して履歴書を作成したが、 その顔写真欄には甲自身の顔写真を貼付していた。この場合、甲には、有印私文書偽造罪が成立する。

オ.甲は、Aから金銭を借り入れるに際し、数日前にBが死亡したことを知りながら、Aに差し入れる予定の金銭消費貸借契約書の借受人欄に、Bの氏名を冒用して署名押印し、一般人をしてBが生存中に作成したと誤信させるおそれが十分に認められる文書を作成した。この場合、 甲には、有印私文書偽造罪が成立する。

1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ


正解:1

ポイント

ア:有印私文書偽造罪ではなく詐欺罪が成立する→×

イ:支払用カード電磁的記録不正作出罪ではなく電子計算機使用詐欺罪が成立する→×

第12問

遺棄の罪に関する次の【見解】についての後記アからオまでの各【記述】のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.14])

【見 解】

遺棄とは、場所的離隔を生じさせることにより、要扶助者を保護のない状態に置くことをいうところ、遺棄罪(刑法第217条)の「遺棄」は、要扶助者を移動させる行為(移置)のみに限られるが、保護責任者遺棄等罪(同法第218条)の「遺棄」は、移置のほか、置き去りのように、要扶助者の移動を伴わず、行為者自身が移動することで要扶助者との場所的離隔を生じさせる行為を含む。同罪の「不保護」は、場所的離隔を伴わずに、要扶助者の生存に必要な保護を行わないことをいう。また、同罪の「保護する責任」と不真正不作為犯における作為義務は一致す る。

【記 述】

ア.この【見解】によれば、保護責任を有しない者が置き去り行為をした場合、刑法第217条で処罰することが可能である。

イ.この【見解】に対しては、不真正不作為犯において、作為との同価値性を基礎付ける要件にすぎないはずの作為義務が、加重処罰の要件である保護責任と同視されており、妥当でないとの批判が可能である。

ウ.この【見解】によれば、保護責任を有する者が要扶助者から離れ、要扶助者を保護のない状況に置いた場合、刑法第218条で処罰することが可能である。

エ.この【見解】に対しては、隣り合った条文で用いられている同一の文言の解釈が異なることとなり、妥当でないとの批判が可能である。

オ.この【見解】によれば、保護責任を有する者の行為によって要扶助者の生命に対する危険が具体化した場合に限り、刑法第218条で処罰することが可能である。

1.ア エ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ オ 5.ウ エ


正解:2

ポイント

ア:保護責任を有しない者が置き去り行為をした場合、遺棄罪(刑法第217条)の「遺棄」には含まれない→×

オ:本見解では罪が成立する危険の程度について述べていない→×

第13問

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し、正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は、アからオの順に[No.15]から[No. 19])

【事 例】
甲(女性、16歳)は、高校の同級生A(女性、16歳)が非行グループと交際し、飲酒喫煙を繰り返していることを知り、それらのAの具体的行動を、特に口止めもせずに同級生2名に告げたところ、同人らを介して、Aの同行動がクラスの全生徒30名の知るところとなった。甲のせいで自己の行状に関するうわさが広まったことを知ったAは、甲を呼び出して暴行を加えた。そのことを知った甲の兄乙は、Aに報復しようと考え、ある日の深夜、A宅付近に自己の車を停め、Aを待ち伏せていたところ、Aの姉B(20歳)がA宅に入ろうとするのを見て、BをAと誤信し、Bを無理やり同車のトランクに押し込んで数キロメートル走行した上、郊外の廃工場に連行した。乙は、上記廃工場において、Bの顔面を数発殴打するとともに、はさみを使ってBの 頭髪を10センチメートル程度切断した。乙は、Bが泣き出したのを見て満足し、その場から立ち去ることにしたが、その際、Bのバッグの中から財布を抜き取り、これを持ち去った。乙は、上記財布内にB名義の運転免許証やキャッシュカードが入っていたため、BをAと間違えたことに気付いたが、同カードを不正に使用し、Bの預金で乙の友人Cへの借金を返済しようと考えた。 乙は、コンビニエンスストアの現金自動預払機に同カードを挿入し、暗証番号としてBの誕生日を入力したところ、取引ができる状態になったので、その場で、同現金自動預払機を操作し、B名義口座から直接C名義口座へ50万円を送金した。その後、甲の交際相手丙は、乙が警察に逮捕されるのではないかと不安に思った甲からの依頼に応じ、乙の上記一連の犯行について、乙の 身代わり犯人として警察に出頭した。

【記 述】

ア.甲が、Aの上記行動を同級生2名に告げた行為は、特定かつ少数の者にAの名誉を毀損する事実を摘示したにすぎないことから、名誉毀損罪が成立することはない。[No.15]

イ.乙が、Bを無理やり自己の車のトランクに押し込み、上記廃工場に連行した行為は、Bを16歳の未成年者と誤信していたのであるから、生命身体加害目的略取罪ではなく未成年者略取罪が成立する。[No.16]

ウ.乙が、はさみを使ってBの頭髪を切断した行為は、人の生理的機能を損なうものではないから、傷害罪は成立せず暴行罪が成立するにとどまる。[No.17]

エ.乙が、B名義口座から直接C名義口座へ50万円を送金した行為は、実質的には預金の占有を移転させる行為であるから、窃盗罪が成立する。[No.18]

オ.丙が乙の身代わり犯人として警察に出頭した行為は、犯人の特定を誤らせることを通じて間接的に犯人の身柄確保を妨げるものにすぎないから、犯人隠避罪は成立せず、証拠偽造罪が成立する。[No.19]


正解:2、2、1、2、2

ポイント

ア:伝播性の理論より公然性が認められ、名誉毀損罪が成立する→×

イ:生命身体加害目的略取罪が成立する→×

エ:窃盗罪ではなく、電子計算機使用詐欺罪が成立する→×

オ:犯人隠避罪が成立する→×

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